今日、ダンスの魅力を語るとき、コンテンポラリーダンスの躍進ぶりに注目せずにはいられません。その原基となっているのはコンテンポラリーダンスの自由さ自在さです。一定の流儀や定型に囲繞されないコンテンポラリーダンスは、その自由さ自在さゆえに、表現の領域や対象の範囲をめざましく拡大しつつあります。例えば、医療・福祉におけるダンスセラピーの活用、教育におけるコミュニケーション能力の開発、文化芸術における新しいコラボレーションの実験など、その可能性はさまざまな分野へと広がっています。
この度「月の舞台」では、こうしたコンテンポラリーダンスの公共的な意義に着目し、その可能性を地域のなかで具現化していく『コミュニティーダンス』に取り組むことになりました。第一弾として実施するのが、即興ダンスの先駆者であり、ダンスセラピーの第一人者としても知られる山海塾の舞踏手・岩下徹による公演とワークショップです。
公演では、岩下徹が「月の舞台」において民族楽器奏者として国際的に活躍する慧奏(esoh)との即興セッションを披露します。また、ワークショップでは、岡山市内の保育園で保育士を対象に、デイサービス施設で高齢者を対象に、そして「月の舞台」で一般の方々を対象に、三者三様の自由で自在な身体コミュニケーションを繰り広げます。
ダンスの新しい概念として注目される『コミュニティーダンス』。その多彩な可能性を、ぜひこの機会に実感してください。
*プロフィール
岩下徹(いわした・とおる)<舞踊家/即興ダンス、山海塾舞踏手>
国際的な舞踏グループ・山海塾の舞踏手である岩下徹は、ソロ活動では<交感(コミュニケーション)としての即興ダンス>の可能性を追求している。
1957年東京生まれ。筑波大学第一学群人文学類哲学専攻中退。79〜80年山海塾に参加、一時その活動を離れるが、86年に復帰後、現在まですべての作品創作に参加。82〜85年石井満隆ダンスワークショップで即興を学び、83年ソロ活動開始。かつて精神的危機から自分のからだを再確認することで立ち直ったという経験を原点とするソロダンスは、観客の前に等身大のからだで立ち、場との交感から生まれる即興として踊られる。88年より滋賀県/湖南病院(精神科)で看護スタッフと共に「ダンスセラピーの試み」を継続実施中。日本ダンスセラピー協会副会長。京都造形芸術大学客員教授。
代表的な活動として、88年より年に1度、<無音、即興、1時間>という条件の元で踊る『放下(ほうげ)』シリーズ、89年より野外や劇場ではない空間で、その場にある音や環境と踊る『みみをすます(谷川俊太郎同名詩より)』シリーズ、音楽・美術・詩・ダンスなどとの日替わり即興セッションの5日間『IMPROVISATIONS』シリーズ(1995〜99年)、リアルタイムに放送中にラジオで踊る『ラジオで踊る』、歌謡曲にのせてひとつの恋愛の始まりから終りまでを踊る『リーベ』(1990、1999年)等のほか、様々な方を対象にしたワークショップがある。
慧奏(esoh)
ピアノをメインに、オーバートーンヴォイス(倍音歌唱法)や循環呼吸など独得な奏法による先住民族のスピリチュアルな伝統楽器をはじめ、石や木から成る自然素材のオリジナル楽器を演奏。その多才さと精神性の高いプレイは、シーンの中でも際立つ存在であり続ける。87年には、自己のグループ Silent Pulse でモントルー・ニュージャズ・フェスティバル(スイス)に出演。91年ダンス作品「アマミシネリ」の音楽担当として、沖縄、ローマ、パリ、ギリシャ公演を行う。“風の楽団 Wind Travelin' Band ”のメンバーとして、えまと共にグラストンバレー.フェスティバル(イギリス)や、アメリカ西海岸ツアーなど国際的な活動を展開しながら、多数のユニットにも参加している。